膵臓のがん
横浜労災病院では、膵臓がん早期診断プロジェクトとして地域の開業医の先生方と共同した膵臓がんの早期発見・治療成績の向上に向けた取り組みをおこなっています。
膵臓とは
膵臓は身体の中心部、胃の後ろにある長さ約15cm・重さ約70gの細長い臓器です。膵臓には、血糖値のコントロールを行うインスリンなどのホルモン分泌と、膵液を膵管を通して十二指腸に分泌する消化に関わる機能があります。体の右側から膵頭部、膵体部、膵尾部と呼ばれています。
(患者さんのための膵がん診療ガイドラインの解説.日本膵臓学会膵癌診療ガイドライン改訂委員会編.金原出版株式会社.より引用)
膵臓がんとは
膵臓に発生する悪性腫瘍を総称して膵臓がんと呼びます。膵臓のどの部位にできたかによって、膵頭部がん、膵体部がん、膵尾部がんなどと表現することもあります。
いわゆる「膵臓がん」は、膵管からできる「膵管がん」のことを指し、膵臓の悪性腫瘍の多くがこれに当たります。その他に、良性腫瘍が悪性化した膵管内乳頭状粘液産生性腺がんや神経内分泌がんなどがありますが、膵管がんとは治療法が区別されています。
膵臓がんになりやすい方
膵臓がんは近親者に膵臓がん患者が多いほどリスクが高いと言われています。
親兄弟子供に1人の膵臓がん患者がいると約5倍、親兄弟子供に2人以上の膵臓がん患者がいる家系は膵臓がん発生リスクが高い「家族性膵がん家系」として注意が必要です。
その他、飲酒・喫煙や肥満などの生活習慣、慢性膵炎や膵管内乳頭状粘液産生腫瘍(IPMN)をお持ちの方は膵臓がんリスクが高いと考えられています。
また、新たに糖尿病と診断された方、糖尿病が急に悪くなっている方は膵臓がんの発生がないか詳しい検査が勧められます。
膵臓がんの症状とは
腹痛や背中~腰にかけての痛み、体重減少などで病気が見つかることがありますが、膵臓がんに特別な症状はありません。胃カメラなどで症状の原因がはっきりしない上腹部症状や体重減少、血液検査での膵酵素異常(アミラーゼ・リパーゼの上昇)などがある方には精密検査が勧められます。
膵臓がんの検査について
膵臓がんの拾い上げには、血液検査での膵酵素異常や腹部超音波検査での膵管拡張、膵のう胞などのサインを見つけることが役に立ちます。これらの異常があった方に対してはMRCP(MR胆管膵管造影)や超音波内視鏡検査(EUS)などを行います。
実際に膵臓がんを疑う腫瘍が見つかった方に対しては、造影CT検査や超音波内視鏡を用いた組織検査(EUS-FNA)などを行い、治療方針を立てていきます。
膵臓がん早期診断プロジェクトについて
当院では膵臓がんリスクを有する方に対して、膵臓がん早期診断プロジェクトとしてクリニックの先生方と共同した取り組みを行っております。
治療
膵臓がんの根治が期待できる治療は外科手術のみです。
外科においては特に肝胆膵悪性腫瘍に対する血管合併切除兼血行再建術など専門性の非常に高い治療に対応しております。膵臓がんは術後の再発が多いことが知られており、診断時に病気が取り切れる範囲に収まっている場合でも、術前に抗がん剤治療を行うことで、手術後の再発率を抑えることが最近の診療指針(膵癌診療ガイドライン)で提案されています。
当院においても膵臓がんの治療方針は診断がついた時点で消化器内科・外科・腫瘍科でのキャンサーボード(合同会議)を経て、患者さん毎に術前・術後治療のメリットデメリットを検討した上で最も適切な治療法を提案していきます。診断の時点で遠隔転移(肝臓、肺など膵臓から離れた臓器への転移)が見つかった場合は抗がん剤治療による症状緩和・延命治療が治療の選択肢となります。
現在は抗がん剤にも複数の種類があり、腫瘍科の専門医を中心に患者さんの状態などから適切な抗がん剤が選択されます。治療に際して、腫瘍による胆管閉塞・黄疸や消化管閉塞などを起こした方に対しては、なるべくQOLの維持を目指した低侵襲の内視鏡でのステント治療を中心に、外科でのバイパス手術を併用しながらそれぞれ対応していきます。
参考文献
解剖学講義.伊藤隆.南山堂.
膵癌診療ガイドライン 2019年度版. 日本膵臓学会編.金原出版株式会社.
患者さんのための膵がん診療ガイドラインの解説.日本膵臓学会膵癌診療ガイドライン改訂委員会編.金原出版株式会社.