がん診断や診療の現場で利用する医療機器は、技術革新により、日々目覚ましい進歩を遂げ、現在のがん治療の重要な一翼を担っています。
ガンマナイフ
ガンマナイフとは脳病変に対する定位的放射線治療の装置です。半球状に配置された192個の線源(コバルト60)から出たガンマ線を脳病変領域に極めて正確に集束し高線量として照射し治療します。192個から出るガンマ線は一つ一つは微弱でこれらのビームが集中して高度の線量となり病巣領域に正確に当たるようになっており、誤差はミリメートル以下です。
病変周辺の脳実質や血管などには照射線量は極めて少なく、放射線の影響が最小限になるようにしてあります。従来の手術では到達しにくかった脳深部や危険な部位でも照射治療できることから、合併症のため手術の危険度が高い人や高齢の方でも治療可能となりました。また手術でとりきれなかった腫瘍、動静脈奇形や再発腫瘍に対しても効果が発揮されます。
当院では2020年12月よりガンマナイフの最新機種であるガンマナイフIcon(アイコン)が稼働しています。ガンマナイフアイコンの一番の大きな特徴は頭部固定においてマスクシステムが導入された点にあります。アイコンではプラスチック製のフェイスマスクで顔面を覆い頭部固定を行うことが可能になります。ただし、頭部固定の方法は患者さんの状態や病変の状況によって医師が最適な方法を選択いたします。そのためマスクシステムではなく従来通りフレームをピン固定して治療を行う場合も多くあります。
また、当院ではガンマナイフに加えリニアックの高精度放射線治療装置であるノバリスも稼働しており頭蓋内病変に対する放射線治療として多くの選択肢を持っています。
手術・薬物療法に加え最新の放射線治療を適切に組み合わせることにより疾患に応じた最善の治療を提供することが可能です。
【主な適応疾患】
脳腫瘍:聴神経腫瘍、髄膜腫、転移性脳腫瘍、下垂体腫瘍、小脳血管芽腫、頭蓋咽頭腫、松果体腫瘍、胚芽腫など
脳血管障害:脳動静脈奇形など
その他:三叉神経痛
なお、当院では全身麻酔にも対応しているため小児でも治療可能です
ノバリスSTx
2014年4月から当院では、cone beam CTによる画像誘導照射や呼吸同期装置を備えた、国内最高水準の高精度放射線治療装置であるノバリスの最新機種「ノバリスSTx」が稼働しています。
多方向から照射される放射線をビームごとに強度を変化させて照射する、強度変調照射(IMRT)などの多様な治療計画を可能とするソフトウェアと、精度の高い照射技術、赤外線とX線の監視システムによる体動追跡、微修正機能などのハードウェアが最適に融合した技術によって、脳腫瘍、鼻咽頭部がんなどの頭頸部病変のみならず、肺がん、肝臓がん、前立腺がん、脊椎腫瘍などの体幹部病変にも優れた治療効果が実証されています。
当院では、2014年4月より前立腺がんに対してIMRTを最新方式(VMAT)で施行を開始し、同年9月からは、肺がんに対する体幹部定位照射(ピンポイント照射)を開始しています。
特に頭蓋内における治療では、腫瘍体積の大きな病変(転移性脳腫瘍や髄膜腫、下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫などの良性腫瘍)や、神経膠腫のようなびまん性に浸潤する腫瘍などが対象となっており、複数回での分割照射が可能で、高率な腫瘍制御効果が期待できます。従来からのガンマナイフ治療に加え、この「ノバリスSTx」の治療を開始することで、数ミリ大の微小病変から3センチを超えるような比較的大きな病変までの放射線治療が可能となりました。
「ノバリスSTx」の導入により、開頭手術と同様の手術効果が期待でき、かつ副作用や身体の負担が極めて少ない脳外科領域での最先端治療を提供しております。
ダヴィンチ
ダヴィンチとは、アメリカで開発された最新鋭の内視鏡手術支援ロボットです。
主にロボット部と操作部で構成され、ロボット部の先端には、メスや鉗子を取り付けることのできる3本のアームとカメラがついています。術者は操作部にある2本のマスターコントローラーを手で、フットスイッチを足で操作します。この遠隔操作によってロボット部のアームが動き、鏡視下手術と同様に患者さんの体に小さな穴を開けて、傷口の小さい低侵襲の手術を行うことができます。
術者は先端のカメラによって画面に映し出される患者さんの立体的な3Dの術野を見ながら、自身の手のように自由自在に動くアームを操作します。540度回転など、人間の手首以上の可動域を持つアームの繊細な動きは、従来の手術に比べ正確性と安全性を向上させます。
また、座ったままでの操作や手ブレ防止機能もそなわっているため、術者の負担が軽減され、これが患者さんのさらなる安全にもつながるのです。さらに、1秒間に100万回を超える安全性チェックを実施することにより、常に装置の安全性・信頼性を確認しています。
患者さんのメリット
- 術中の出血量が少ない
- 術後の疼痛が軽減
- 早期回復が可能
- 機能温存が向上
- 合併症リスクを大幅に回避
診療科の取り組み
当院では2013年9月より、まず泌尿器科において、前立腺がん治療でのダヴィンチ手術を開始しました。従来の開腹手術は比較的出血の多い手術でしたが、ダヴィンチにより出血が少なく、小さい傷で痛みの軽減した手術を行えるようになりました。
現在、ダヴィンチによる前立腺摘出術、腎部分切除術、および膀胱全摘術については健康保険が適用されます。
また、2020年からは産婦人科領域や、また呼吸器外科、消化器外科の各領域におけるダヴィンチ手術治療を開始しております。
産婦人科領域においては、早期子宮体がんにおける子宮悪性腫瘍手術だけでなく、子宮筋腫や子宮腺筋症など良性疾患に対する子宮全摘術も保険適応です。
術者の手指の動きに合わせて自由自在に連動した鉗子操作は、特に骨盤の狭く深い場所に病巣があり、繊細な操作を要する婦人科腫瘍の手術領域に対し、世界中で導入実施が進んでいます
がん遺伝子パネル検査
【がん遺伝子パネル検査(がんゲノムプロファイリング検査)について】
がんは、われわれの正常な細胞の中でたくさんの遺伝子の異常が積み重なっておこったものです。この異常の中には、がん細胞に利益となる重要な変化が含まれています。近年のがん治療薬では、このような遺伝子異常を標的として開発されるものが増えています。
2019年6月にわが国でがんゲノム医療が保険適用となりました。これは患者さんの腫瘍組織、あるいは血液検体を用いてがん細胞で起こっている遺伝子異常を網羅的に調べ、それに適合した治療を検討するものです。
この検査を活用する方向でがん薬物療法が進むと、現在のように使用できるがん治療薬ががん種によって規定されているものから、がん細胞の遺伝子異常に基づいた、よりオーダーメイドに近い治療が主流となる可能性があります。
がん遺伝子パネル検査は、患者さんの個々のがん細胞(血液で検査を行う場合もあります)を用いてがんに関連する多くの遺伝子を調べ、がん細胞の特徴を解析して、適切な薬剤や治療法、あるいは患者さんが参加可能な臨床試験・治験などの研究的な治療を探すための検査です。
検査は、国から指定を受けた医療機関(がんゲノム医療中核拠点病院や拠点病院・連携病院)でのみ実施可能です。
当院では2022年3月から、がん遺伝子パネル検査(がんゲノムプロファイリング検査)の実施を行っております。
キャンサーボードについて
「キャンサーボード」とは、がんの手術、放射線療法及び薬物療法の治療に携わる医師・主治医と、その他のがん診療領域の専門医師や医療スタッフ等が一同に会し、がん患者さんの症状や状態及び治療方針等について、意見交換・共有・検討・確認等するためのカンファレンス(合同会議・話し合い)のことです。がん診療を支える当院の大切な取り組みの一つです。
主なキャンサーボードの開催実績
当院では2016年から、患者さんの症例を包括的に検討するキャンサーボードや、院外の医療職、がん治療医や医療スタッフ等が毎回30名近く集まり、診療科発信の情報共有や様々な意見交換を行うキャンサーボードを定期的に開催し、がん診療の充実を図っています。
開催回 | タイトル | 担当科 |
---|---|---|
第32回 |
緩和照射の使い方 |
放射線治療科 |
第31回 |
①irAE肺臓炎について ②坐骨溶骨性病変にて発症した悪性リンパ腫 |
呼吸器内科(化学療法連絡会)/血液内科 |
第30回 |
「リンパ浮腫」― がん関連リンパ浮腫を中心に ― |
形成外科 |
第29回 |
複数科の連携により対応した原発不明癌の症例 |
呼吸器内科 |
第28回 |
泌尿器科がんにおける手術療法 |
泌尿器科 |
第27回 |
COVID-19パンデミックが消化器癌のステージに与える影響 |
消化器内科 |
第26回 |
転移性脳腫瘍に対する定位放射線治療 |
脳神経外科 |
第25回 |
肺類上皮血管内皮腫の一例 |
呼吸器外科 |
第24回 |
がん悪液質の診断と最近の話題 |
緩和支持治療科 |
第23回 |
悪性疾患に対する高難度手術 |
外科 |
第22回 |
口腔がんの治療と顎骨再建/周術期口腔ケアの重要性について |
歯科口腔外科 |
第21回 |
首のはれものについて |
耳鼻咽喉科 |
第20回 |
「腺 癌」について |
病理診断科 |
第19回 |
がんのリハビリテーション 医療機関における治療と仕事の両立支援の推進について |
リハビリテーション科・救急科 |
第18回 |
がんと皮膚科の関わり |
皮膚科 |
第17回 |
放射線診断科 | |
第16回 |
若年(AYA世代)がん患者への対応 |
産婦人科 |
第15回 |
心療内科 | |
第14回 |
外科 | |
第13回 |
~遺伝子学的診療システム構築にむけて~ |
乳腺外科 |
第12回 |
当院の緩和ケアの実際 |
緩和支持治療科 |
第11回 | 乳がん術前化学療法:ドセタキセル投与中の急性腎不全、乳酸アシドーシスの病態にビグアナイドが関連した症例 | 乳腺外科 |
第10回 | -脊椎転移に対する手術療法を中心に | 整形外科 |
第9回 | 血液内科のがん診療に対する試み | 血液内科 |
第8回 | Novalisって何? | 放射線治療科 |
第7回 | 形成外科におけるがん診療との関わりについて | 形成外科 |
第6回 | がん免疫療法について | 呼吸器内科 |
第5回 | 進行癌における泌尿器科への依頼と最近の泌尿器癌手術療法について | 泌尿器科 |
第4回 | 当科の特性を生かした消化器がん治療 -早期消化管治療・ステント治療・肝がん治療について- |
消化器内科 |
第3回 | 転移性脳腫瘍に対する定位放射線治療 | 脳神経外科 |
第2回 | 横浜労災病院における転移性肺腫瘍の治療の現状 | 呼吸器外科 |
第1回 | 肋骨転移切除前に血管塞栓術を必要とした腎臓がんの再発の症例 | 腫瘍内科 |